47の素敵な美術館へ

日本の美術館/博物館/ギャラリーのおもしろさを見つけるブログ。美術史の話なら何でも。ただしゆるゆる更新

あいちトリエンナーレ(2019.10.13-14)

あいちトリエンナーレ http://aichitriennale.jp/

今年で第4回となりあいちトリエンナーレ。行ってまいりました!私にとっては2013年、2016年に続き3度目のあいトリ遠征です。

2019年の今回は、津田大介さんが芸術監督です。津田さん監修の下で出展アーティストの男女比を半々にするなど、開催前から話題になっていました。

何より、開幕3日で脅迫による危険などさまざまな理由を付けられて閉室に追い込まれてた「表現の不自由 その後」展。文化庁からの7800万円の補助金不交付*1。止まらない電凸をみて設置されたアーティストによる電話対応Jアートコールセンター*2など、ニュースをまとめるだけでも十二分な分量になるくらい話題豊富なあいトリでした。

最終日には津田さん自らが各会場に赴いたり、ニコニコ生放送で振り返り配信をしたりと、今回は芸術監督の個性が最も強烈でした。

 

私の愛知遠征は台風が過ぎ去った後で半日ずれ込んでしまいました。13日(日)は抽選時間を過ぎており抽選参加すらできず、14日は予定を調整して3回中2回の抽選に参加して落選。不自由展は鑑賞することができませんでした。

とはいっても、「表現の不自由 その後」展の他の展示作品もとても充実していて、2013年、2016年と足を運んだあいトリの中で一番の満足感でした。

社会的な問いを私たちに投げかけてくる作品が多く、また津田さんのルーツであるインターネット、ICTを強く思わせる要素も展示の節々にありました。

また、過去のあいトリだと、技術や理論に凝り固まって「?」な作品が正直あったのですが、今回2019は柔和で身近で取っつきやすい作品が、体感として多かったです。もしかしたら、開催前から話題になってた出展アーティスト男女比を半々にするという芸術監督の努力が影響してるかもしれないと思いました。

それでもトリエンナーレの作品数、充実さを思うととてもすべては書けませんので、このブログでは、私が観ていて特に気になった作品/考えさせられた作品について備忘録し、その感想に終始したいと思います。

 

不自由といえば、本来ならチケット料金で普通に観られるはずの展示室が一部閉鎖されて鑑賞の自由が奪われました。また、抽選時間は一日のうちの決まった時間に固定されているため、それに参加したい場合はその時間に愛知県美術館に戻らなければなりませんから、スケジュールを組むのにも不自由しました。表現の不自由その後展を閉鎖に追い込んだことで、さまざまな不自由が生まれたのはなんとも皮肉ですね。

会期終了直前~後にも、愛知県庁に寄せられた電凸のこと*3富山県立近代美術館事件*4など、あいトリに関連する記事を朝日新聞がいくつも出しています。

 

愛知県美術館10F

まず訪れたのは愛知県美術館の10F。閉館まで90分くらいだったのですが、映像など時間を要する作品が多く、《10分遺言》に見入っているうちに入館時間を過ぎてしまって8Fに行けませんでした()。

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dividual inc.(ドミニク・チェンさん)《ラストワーズ/タイプトレース》 #10分遺言

10分遺言。自分が死ぬと決まった最後の10分で残す誰かへの遺言を、書いたり消したり直したりする様をデジタル筆跡としてみせる映像作品。タイピングの音があり、展示室の真ん中には実際のPCモニターとキーボードが連動して動いている。

遺言の宛先は恋人、パートナー、子供、家族な人生や出身地、相手との関係が生々しく見えた。時間ぎりぎりになると追い詰められて本当にごめん本当にありがとうを何度も繰り返し打ってる人もいた。人生の最後に言い残したい愛にまみれていて、いいなあと。アップルのキーボードから入力される白地に黒字の明朝フォントだけど謎に温かみがあった。企画が用意したPC端末だから、個人名を打つにも漢字の変換がなかなか出てこなかったり、思わぬ誤変換になったりと、限られた時間の中でヤキモキしている生きた筆跡は生々しかった。

また、コンピュータで写真を加工してドレ―パリーを削除して色の面になっている洗濯物の写真。はたまた、撮影してPOしてはちぎり、それをさらに撮影・合成して…と作られた永田康祐の写真作品。はたまたヘザー・デューイ=ハグボーグの、街で拾ったゴミのDNAから3Dプリンタでフェイスマスクを3D印刷した作品。併せてDNAが悪用されないように、DNAを99%除去できるスプレーも商品化できるレベル動いているなど。10Fは、進歩した技術がもつ表現の可能性がアーティストにインスピレーションを与えたような作品郡でした。

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愛知県美術館8F

展示空間ごとにコンセプトがしっかりしていて、観て周りながら考えることが多かった。おもしろかった。10Fが技術だったとしたら、8Fは社会。8Fは作品のインパクト、社会性や暴力性(爆発とか強制とか)とか思想的な訴えが強くて、作家個々の個性よりも際立っていたように思う。不自由展その後の展示室もこの階でしたし、「展示再開」の赤文字と名声文の掲示も多かったです。

台湾の軍事訓練で誰もいなくなった街の風景をドローンで撮影した映像作品を上映している隣の部屋からは、凄まじい爆音がまる聞こえ。行ってみるとそこには、遊園地と思わしき廃屋が爆破されている映像。

チマチョゴリが天井からカーテンのように下げられた展示室の奥では、北朝鮮の総書記の葬式の映像を流している。その部屋の時点で強いメンソールの香りがしていたのだけど、次の作品の部屋に進んでみると、メンソールの強い香りで強制的に入室した人を泣かせる空間でのインスタレーション

作品個々でとらえると満足な鑑賞の妨げになったと思うのだけど、作品と作品が干渉しあってしまっている展示室の状況は、国と国が影響しあい純粋な聞こえでない今の情勢の反映のようにも思えた。あとは、FedExで世界中に輸送されてバキバキになったガラスケースとか。日ごろ使っている物流、インフラがどれだけの衝撃に耐えているのかみたいなところを、考えさせられたな。

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愛知芸術文化センターの1F

整理券が必要な映像展示、観覧チケットとは別のチケットが必要なパフォーマンスステージなども多いあいトリ。私は時間の都合で一般的な展示のみを観て周りましたが、加藤翼の映像《2679》はセンターの階下にこじんまりと上映されていたにもかかわらず、見ごたえのある作品で、巡り合えてラッキーでした。

和太鼓、琴、琵琶を演奏する3人がそれぞれ離れたフロートの上で背中合わせの向きで楽器を構え演奏するのだが、四肢に巻かれたバンドとそこから伸びるロープで3人は繋がっている。誰がが腕を動かせば誰かの腕が意識しない方向(後ろ)に引っ張られ、満足に演奏できない。眉間にシワをよせたり苦笑いしたりしながら音楽をする。インターネット、SNSによる相互監視が可視化されているようだった。滑稽だね。撮影場所が愛知芸術文化センターの目の前直結のオアシス21というのも地域性があって嬉しい。

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名古屋市美術館

翌日、10月14日最終日。抽選が外れた後は、9:30から開館している名古屋市美術館へ。

大人しい作品が多かったが、桝本佳子の陶器の作品は、古今が混じっていてワクワクした。不自由展の件で作品を一度閉室したモニカ・メイヤー《The Clothesline》は、ふとした時の性差別のエピソードがこれでもかと言うほど寄せられた神社のようになっていて、読むのがつらくてあまり観られなかった。用意された用紙に記入してクリップで自由に留められるようになってるのだけど、「女性=ピンクというイメージが嫌」というパープルの用紙に書かれたコメントが素晴らしい皮肉だなと思った。

SholimのGIFでループする短い動画作品はiPhoneのような端末が壁に貼り付けられていて、津田監督下らしい展示だと思った。

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桝本佳子さんの陶器の街。壺の中は家の灯りや窓のような四角がカラフルでかわいらしかった。

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Sholim

そして、art play groundのあるB1Fに下りると、常設展示室をいつものように解放していて素晴らしい…!!トリエンナーレの特別展ももちろん楽しいのだけど、せっかく遠征したからにはここでしか会えないコレクションの作品たちも観たいもので……チケットもぎりのスタッフさんに、嬉しいですとか声をかけてしまいましたw 

名古屋市美術館 名品コレクション展II 展示作品一覧(2019.10前期)

ジュール・パスキンのインクのデッサンや版画の小品が、小展示としてまとまって出ていました。描き込みが多いものもあれば、少ない線で人物や情景を表していて、それでも個々の特徴が身なりだけでなく立ち振る舞いにも表出していて、見入ってしまいました。繊細で、観ていて楽しかったです。

そして注目は、今年6月に寄贈された藤田嗣治の油彩2点*5。1枚は《二人の祈り》(1952, oil on canvas)。マリアに跪くフジタとたくさんの子どもたちが描かれた作品。人体がマニエリスムチックにくねくねしていて、いかにも宗教色が強い。もう1枚は、横たわる裸婦が描かれた《夢》(1954, oil on canvas)。天蓋から下がる白地カーテンの青い線の装飾が中世のラブロマンスっぽい物語のようなで、また同時に夢の内容も描いているようで、見応えがありました。名古屋市美のコレクションは撮影NGなので残念ですが、どちらもおもしろい作品だったので皆様も白川公園へ足を運ばれた際には必ずや。

 

四間町・円頓寺エリア

今回のあいトリ、歩いて回りやすかった。普段は東山線鶴舞線しか使わない私ですが、今回は桜通線名城線も活用して、国際センター駅へ向かい、四間道(しけみち)・円頓寺エリアを散策しました。

展示数や展示箇所が点在していると、どうしても「作品を観てまわる」行動をしてしまうのですが、今回のあいトリはすべてのエリアがメトロだけで周れるし、極端に遠くにあるわけでもなく、訪れた場所にはどこも来た甲斐のある&観やすいヴォリュームで作品が集まっている。だから、観られる作品数に対して見積もっていた時間に余裕ができて、結果街を散策してのんびりすることもできた。神社に立ち寄ったり、商店街の喫茶店でお昼のサンドイッチを食べたり。

伝統的な家屋がメトロで数駅の名古屋市内にこんな蔵の町並みが残っていることに驚いた。そういう日本古来の家屋の風景は、岡崎市や遠方のものとばかり思い込んでた。なぜこの街がこれまで舞台にならなかったのかが知りたい(…おかざえもんの関係かな?w)。

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このエリアでは、商店街を抜けた先にある雑居ビルで見たキュンチョメ《声 枯れるまで》の映像がよかったです。性を変えたり違和感を覚えたりしたことで、自分の名前を付け直したFtMMtFあるいはXジェンダー3人のドキュメンタリで、ドキュメンタリの終わりには新しい自分の名前を声が枯れるまでひたすら叫ぶというもの。

ディレクターorキュンチョメが「あなたの名前は?」などと問いかけてそれに対して自分の名前をひたすら答えて叫ぶのだけど、もはや後半はやんわりした喧嘩みたいに聞こえてきて(笑)過去の名前と戦っているようにさえ見えた。

3人の貴重な経験を知ることができたとともに、私自身「ゆうき」という中性的な名前で、気に入っている半面でアイデンティティを左右されている部分も多いので、親近感をもって見ていました。映像手前の小さな部屋(給湯室ぽかった)で上映されてた、書道で書いた名前の上に赤い墨で新しい名前を一緒に上書きする映像も興味深かったです。新しい名前をどうやって知らしめるか、定着させるか…という発想がおもしろかったです。

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浅間神社

 

art play ground

名古屋市美術館B1のラボでは布を使った創作ができるスペース、愛知県美術館8Fは対話の「はなす」アートスペース、10Fは段ボールで公園やアスレチックのような遊び場を自由に工作できる「あそぶ」スペースになっていました。豊田市美術館は人に向けて表現し伝えたいことに関する「しらせる」スペース(行けなかった…!)。そして基地的な意味で拠点になっていたのが四間町・円頓寺エリアの「もてなす」アート・プレイ・グラウンドでした。なんとも津田大介さん的な発想でわくわくした。あいトリ参加者からはこの場を訪れた人に手書きでアナログに情報をもらいつつ、オンラインで5つのスペースすべてを繋いでいる。開催後もこの情報は活用するということをボランティアの方は仰っていました。どう使われるのか楽しみです。

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町内ビッグデータ。町に関するさまざまな情報、逸話を手書きしたメモが蓄積されている。

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町内マップ。あいトリエリアの地図に町の情報が付箋で掲出されている。喫茶店など飲食店のおいしいメニューに関する情報まで。お昼の参考になりました。

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art play groundの様子がリアルタイムで中継されてオンラインで繋がっていた。

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「もてなす」art play groundが入っていた家屋

 

豊田市美術館

表現の自由展その後の最後の抽選が干されると、残念だったなという気持ちよりも、これで心置きなく豊田へ行ける…!の喜びと共に気持ちが軽くなりましたw 大好きな鶴舞線豊田市へ。

名古屋の社会性のエッジがききまくってる展示室から一転、豊田市美では花の印象が強かった。天井高の展示室でのスタジオ・ドリフトの作品は、寝転がって上から振ってくるペチコートのような形状の白い生地を見ていると、一輪咲きの花が咲いたり閉じたり茎を伸ばしたりしてるのを真上から眺めているような錯覚に陥って、楽しかった。

写真作品のタリン・サイモン《公文書業務と資本の意思》もとても印象に残りました。あまりに美しい花の写真郡なので、なかなか展示室から出るのが惜しい時間だった。

これらの写真は、公印の際に国から国に贈られた花を記録から品種や色を特定して再現している。花のある風景は壁とテーブルではなく、それを思わせる2色の色の面で構成されていてまるで国旗のよう。一見すると美しい写真だがフォーマルな国交の歴史を内包していて、とても社会的。

花や儚さのイメージがあるのは、同美術館で行われたカルペ・ディエム展*6を思い出したせいかもしれません。豊田市美らしい内容と思いました。

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タリン・サイモン《公文書業務と資本の意思》

そして名古屋市美同様、豊田市美術館コレクション展示室を開いているのが偉い。同時開催で東京都美術館から巡回してきたクリムト展に合わせて、クリムトと共にウィーン世紀末の画家で、同館がコレクション収集に力を注いでいるエゴン・シーレオスカー・ココシュカの油彩、素描、版画を展示している。すばらしい。これでこそ豊田市美術館。日本近代の和洋折衷な日本画もとても好き。下村観山のしゃれこうべも良い。

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豊田市美術館常設展示室2019.10

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エゴン・シーレ《座る少女:シュテファニー・グリュンヴァルト》(1918)

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下村観山《美人と舎利》1909年、膠彩・絹布


そして、グーグルマップに翻弄されながら美術館への坂道を3回くらい上り下りして←、プールにやっとたどり着きました。美術館のすぐ裏手に学校の跡地があったなんて知らなかった。プールの底がモニュメント化している迫力が凄まじい作品ですが、新施設が建つ都合で近年のうちに取り壊されることも想定したアンチモニュメントだそうで。建て替えってつまり、ビルドする前にスクラップすることだし、そう考えれば愛知県美の展示室でも「壊す」映像があった。取り壊しという社会背景。

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高嶺格

という具合で、私のあいちトリエンナーレ2019の旅は豊田で終わり、新幹線で愛知を後にしました(´ω`)


愛知県美術館の閉会の様子はツイッターでも動画が流れてきましたが、拍手喝采で、シャッターが下り切っても鳴りやまない*7、それを帰りの新幹線の中で見ました。早くまたいろんな美術館に行きたい!と、今年に入って再び燃え出していた美術熱がさらに高まった。"楽しかった"の余韻と、これからの"楽しみ"、に浸りました。心地よい疲労感、何よりも充実感がすごい。早くあいトリ2022が観たい。

 

社会で生きている人々が作り出す作品から、社会的な疑問、テーマは切っても切り離すことなどできない。綺麗なだけが美しさではなく、目でみて美しいだけがアートではない。アートって最高に楽しい。

素晴らしいトリエンナーレを見せていただきました。津田大介さん、本当にありがとうございました。

 

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*1:公金使った美術展は制約されるのか 「不快」はダメ?:朝日新聞デジタル 2019年9月27日11時35分 https://www.asahi.com/articles/ASM9V4H7CM9VUCVL016.html

*2:高山明が「Jアートコールセンター」を設立を発表。アーティストらが電話対応|美術手帖 2019.10.6 https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/20690

*3:「あんた日本人?」鳴りやまぬ電話・泣く職員…電凸ルポ:朝日新聞デジタル 2019年10月15日14時00分 https://www.asahi.com/articles/ASMBC3WHKMBCOIPE00H.html

*4:天皇焼いて踏んだ」批判は残念 作者が思う芸術と自由:朝日新聞デジタル 2019年10月14日11時43分 https://digital.asahi.com/articles/ASMBB3FZMMBBULZU007.html

*5:この令和元年6月に寄贈されたフジタ作品について、画像引用付きのブログがありました。→ 藤田嗣治名作2点「二人の祈り」「夢」 名古屋市美術館へ寄贈 名古屋の収集家 2019/6/21 https://blog.goo.ne.jp/kanayame_47/e/43fa3ad02b104708066b4f6299a8cacd 

*6:展覧会「カルペ・ディエム 花として今日を生きる」CarpeDiem. Seize the day(2012.06.30-2012.09.23) https://www.museum.toyota.aichi.jp/exhibition/Carpe-Diem/?t=2012

*7:あいちトリエンナーレ2019が閉幕。65万人以上で過去最高の入場者数を記録|美術手帖 https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/20727