47の素敵な美術館へ

日本の美術館/博物館/ギャラリーのおもしろさを見つけるブログ。美術史の話なら何でも。ただしゆるゆる更新

早稲田大学創造理工学部建築学科「設計演習A展/転換展」(2018.8)

ヲタクで知り合った友達が早稲田で建築を勉強しておりまして、声をかけてもらってちょうど行ける週末だったので行ってまいりました。昨年夏には一緒にアルチンボルド展を観に行った子です。知り合った時は我々、イケイケJC(ただし落ち着きすぎてる)とオワコンJDだったのにね……感慨深い。

早稲田に降り立ったのは初めて。賑やかながらお寺さん神社さんが多く、夏のオープンキャンパスをやっているからすんごい人!!祭りか!?ってくらいの人で、その流れに乗っていったら早稲田キャンパスに無事到着。今回の展示をやっているのは小野記念講堂のワセダギャラリーでした。オープンキャンパスを観に来ていた生徒や親御さんが多かったです。普通におもしろい展示だったし、下手なアートギャラリーよりよっぽど見ごたえがあってワクワクしました。


早稲田大学創造理工学部建築学科「設計演習A展/転換展」 

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1年が履修できる演習科目で、話を聞いているととにかく毎回課題が出て、即日提出の課題(取り組める時間4時間程度)から、数日、週間単位まで様々なヴォリュームの課題が出されるそう。建築なので、製図とか断面図とかそんなものを思い浮かべていた私ですが、身体や気になった事象のデッサン、観察記録、文章、かわいらしい壁新聞のようなレポートから妄想の吐露まで、とにかく「頭でつかんだイメージを、目に見えて伝えられる形で表現するための速記力」をひたすら鍛える課題とのこと。中には「自分で課題を設定してそれに答える」という課題まである。ひょえ……

話を聞いていると学生1人ひとりの個性や経験(とそれに伴った知識)はとても若者と思えぬほど多く、得手/不得手もはっきりしてる。だからこそ打ち返せる球(課題)という印象。まったく甘っちょろいものではない。ちょっとしか読んだことないけど「ハンター×ハンター」みたい。ひたすらに創造性やアイデアの統率力が求められていて、さすが日本のトップ大なだけあると凄みを感じました。

展示物は平面・立体ともにあって、担当教員ごとにまとめられて展示されていました。どの出品作もとてもおもしろくて、思わず声を出して笑ってしまうものもたくさん。日常になっているささやかな事(ネタ)を丁寧に取り上げて課題の答えとしてまとめているから、どれも深みがあってじわじわと面白い。公表回の講義の映像も流れていて、先生のレビューも饒舌でずっと見ていられる。

本当にたくさんの優れた作品がありましたが、その中から私が最もじわったものをいくつか上げたいと思います。写真はどれも撮影OK、SNSなどどんどん載せちゃってくださいとのことでした。

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私的最優秀は「三途の川体験記」。死者が渡るという三途の川の現在(まさに作者の妄想)をルポルタージュで描く。それによると三途の川周辺も観光化、技術の現代化が進んでいるようで、大変親近感がわき読み進めるごとに引き込まれていった。この方の「××体験記」、他の空想世界もレポしてほしい。浄玻璃の鏡とか、天の川とかそういうところ。課題に対してこういう回答もありなんだなー。他の課題では、記憶喪失になる自分へのマニュアル本のようなものも書かれていて、睡眠時間確保の大切さなど大変共鳴しながら拝読しました。この方の本が出るならぜひ読んでみたいと思いました。

 

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街を観察したりヒアリング調査したりしないと完成できない課題が、即日提出によくあるらしい。特に「何人かの人を取材して素材を集めて」提出できる形にまとめるという技術を磨くのは、私だったら絶対に知らない人に声掛けとかできないから目を見張ってしまった。これの写真の作品は、様々な属性の女性8人の手を観察し、人的特徴を見出そうというもの。おもしろい。コラムとしてのおもしろさがあるし、ギャルの手が凄い。受講している学生を入れることでオチまできちんと付けている。

 

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「役に立たない機械」という発想の転換的な課題自体がとてもユニークなんですが、これに対する学生の回答も面白い。キットカットを逆関節に割ってくれるマシーンとか、スノードームの中身が詰まりすぎて全然楽しめない「豪雪ドーム(修行僧入り)」、茶柱を固定して浮かせてくれる器具など様々。どれも「機械」っていう定義になるのも興味深い。
写真の「マイテンプレート」は、自分の手書き文字をプラ板でテンプレート化して、その溝をなぞれば自筆と同じ文字を書けるというもの。製作工程からして「手書きした文字をイラレに取りこんで…」と、いろいろと役に立ちそうにない優れた作品。

 

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この日一番画期的だったもの、ぜひ欲しいと思ったのはこの「絶起チェッカー」。絶望的な時間に起床(絶起)してしまったときにマシンに曜日、天候の2種類の段パーツをはめこみ、自分が起床した時刻に位置からビー玉を転がすと、「朝食を食べていいよ」or「ただちに学校行け」の2択に自動で答えを出してくれます。発想が天才。最高。これでもう朝迷って時間を無駄にすることがないし、客観的な判断なので決心も付く。欲しい。私のパターンも作ってほしい。
この作者、後に制作した”陽を浴びるための日傘”(開くと大きな穴がぽっかりと開き日光を浴びることができる)が天才バカボンのドラマに出演したらしい。でもどっちも制作物としてのビジュアルがちょっと微妙なのがまた、自らの才能を操りきれていない感があって良い。まさに天才って感じ。ファンになりそう。

他にも、空想で廃墟をリデザインしたデッサンや、早大あるあるネタが盛り込まれた回答などなど、挙げればきりがないくらい面白かった。予定していた以上に見入ってしまった。どの課題に対しても真剣に、直感的に取り組んで回答を提出しているから、どれもある意味では奇を衒っていなくて、金銭的・権力的な綱引きがないからどれも純粋なアイデアが光っていました。彼らは建築の学生さんですけど、このままできるだけ無垢に、いろんなものを創り続けてほしいし、そのような環境が講義の外側にたくさんあってほしいなと思いました。

また機会があったら行きたい種類の展示でした。声かけてくれてありがとう!会期終了お疲れ様でした。