47の素敵な美術館へ

日本の美術館/博物館/ギャラリーのおもしろさを見つけるブログ。美術史の話なら何でも。ただしゆるゆる更新

豊田市美術館(2016.9)

俗に言うシルバーウィーク中に、あいちトリエンナーレのため愛知に行ってまいりました。

美術館の常設展示、日常的な視点から書き残すためのブログにしたいと始めたので、本ブログの皮切りがいきなり催事というのも趣旨と異なってしまうので(苦笑)、トリエンナーレの折に巡った美術館の感想を書こうと思います。

 

豊田市美術館 http://www.museum.toyota.aichi.jp/

JR名古屋駅から市営線で伏見駅伏見駅から鶴舞線に乗り換え、豊田市駅から歩いて10分程度。名古屋から約1時間。愛知環状鉄道の線路沿いのきつい坂をのぼると見えてきます。きついんだけど、この坂をのぼるたびにまた来れた!と感慨深くなる、そんな美術館までの道のりも好きです。いつもこのルートだから、入館がもっぱら裏手の小さな出入口になっちゃうんですけどね(苦笑)。

あいちトリエンナーレのエリア外のため会場にはなっていませんが、愛知まで足を伸ばしたら絶対外せないすばらしい館、豊田市美術館です。

 

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建築は谷口吉生氏。挙母城跡の高台に建てられた館は豊田の歴史とも紐づいています。ピーター・ウォーカーによるランドスケープデザインの敷地内には、その由縁を伝える石碑や、童子苑と呼ばれるお茶室、庭園などがあります。建物2階の屋外にある人工池は息をのむほどで、お天気のいい日はなおのこととても心地良いです。

 

今回訪れた時期はちょうど、9/25まで開催されていた「ジブリの立体建造物展」の会期最終週。1階受付前から廊下を通り、チケット購入列の最後尾はなんと屋外へ続く長蛇の列…。ドアや仕切りが少なく開放的な建物だからただでさえよく音が響くので、この日の喧騒は展示室にいてもわかるほどで、あんなに賑わっている日に当たったのは初めてでした。

 

時間の都合がありジブリ展は回避して、杉戸洋さんの個展「こっぱとあまつぶ」と、常設展示室のみ観覧しました。

杉戸洋さんは特に愛知では知名度のある作家さんだそうです。一見すると幾何学的な画面なのだけど、ずっと見ていると、道とか建物とか街などの見たことのある景色が浮かび上がってくる。色はシンプルでパステル調の優しい色合いなど、ふらりと入るにはちょうどよく、迎え入れてもらえる感じがしました。ジブリの立体建造物展と絡めての開催だったのでしょうかね。

 

常設展示(2016年第2期)

20世紀初頭から現代までの西洋美術の所蔵作品に明るい豊田市美術館の常設展示は、訪れるたびにこんな作品を持っていたのかと驚くことが多い優れたコレクションです。

2F展示室5にコレクションの目玉作品が展示されています。

 

個人的に今回注目した作品は、奈良美智さんのアクリル画でした。初見だと思います。 

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奈良美智 《Dream Time》(1988年)

奈良さんはこんな作品も描かれたんですね。アクリル on canvasの1988年作ということで、初個展から4年後の最初期にあたるでしょうか。どことなく有元利夫さんあたりを彷彿とさせる、ルネサンス初期のような素朴さがあります。

 

そしてクリンガー。

違和感を覚えたのが、腰のあたり。後ろに反った姿勢にしては腹部が薄すぎる。ちょうど半身半馬のケンタウロスみたいに、下半身を馬にしたらちょうど収まりそうな姿勢。

 

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 マックス・クリンガー《裸婦》(1914年)

キャプションがなかったからわからないけど、何かの習作でしょうか。気になる…。

 

 他には、ジブリの特別展と関連した建物がらみで、エッシャーの代表的な版画が何点か出ていました。

入って手前の長い辺の壁は一面がガラスケースになっていて、これは近代の日本画も多く持っているためですが、展示によってはケース内に西洋画がかけられることも多く、ちょっと惜しかったりします。ケース前に壁を立てても狭くならないとは思うのですが。今回はクリムト、シーレ、ココシュカはこのガラスケースの中でした。

 

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(※2015年10月の同館展示室で撮影)
エゴン・シーレ《カール・グリュンヴァルトの肖像》(1917年)
http://www.museum.toyota.aichi.jp/collection/000182.html

シーレは私が卒論、修論でテーマにした画家なのですが、日本では彼の優良な作品とその周辺をコレクションで持っているのは愛知と宮城くらいなので、ここに来れば会えるというのはとても嬉しいことです。
何度観ても飽きることのない色と構造をしています。「感情任せのエロスの画家」…みたいに嘲笑的に捉えられがちな作家ですが、晩年の作品には落ち着きがあります。それまでの彼の作品ではそれこそショッキングなエロスで隠れがちだった緻密な画面構成が、本作ではよく伺えるようになっています。色や筆致は画像だと伝わりづらいですが、実物は図版で見るよりも暗く沈んだ印象はなく、ずっと綺麗な深い藍をしています。

 

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以前、東京国立近代美術館竹内栖鳳展(2013年)をやっていた時期は、この館のコレクション展示室に栖鳳の夫婦のライオンの屏風が出ていました。
栖鳳展は栖鳳展でとても楽しみましたが、その企画展示に出ていてもおかしくないクオリティーの作品を、常設展示のひと気のない部屋でひとり占め状態で観ることができたのはとても貴重な体験でした。

そんなこともあり、大規模な特別企画展が催されている時には、各々の美術館もそれに喚起されて普段は出していない作家の作品を収蔵庫から常設展示室にひっぱりだしてくることが少なくありません。ちょっとマニアックな楽しみ方かもしれますが(笑)混雑してる特別展で観るより、じっくり味わえると思いますよ^^

 

 

※本記事に掲載する画像は、豊田市美術館で撮影したものです。撮影の際には、受付あるいは監視スタッフに確認して行っています。※
※外観の写真など、一部2015年に撮影したものを使っています。お天気が悪くて^^;※